奥祖谷 二重かずら橋

東祖谷山村

野猿から,二重かずら橋を臨む男橋 かずら橋というと,大歩危からバスで30分足らずの所にある西祖谷山村のものが有名だ。観光のコースにも含まれることが多く,観光地として開けている。以前,西祖谷山村のかずら橋を観光で訪れた際も,相当興奮し,感動した記憶がある。
 こちらに来て,西祖谷のかずら橋から,さらに奥の奥祖谷(東祖谷山村)に,二重のかずら橋があると知った。こちらは,場所がかなり奥まったところになることや,大型のバスが通行できるような道が整備されていないために,観光コースに入ることもなく,あまり人が訪れる事もないようだ。秘境というのにふさわしいところだ。

 今回は,こちらの道路事情をあまり知らないまま単純に最短距離で東祖谷山村を目ざしため,かなり道がくねくねしていて整備も行き届いておらず運転に神経を使った。比較的道の良い池田経由で西側から入る経路がおすすめだ。東から,神山,川井峠,剣山の登り口である見ノ越経由でここに向かうには,結構の勇気がいるかもしれない。もう一度行けと言われたら,迷わず池田大歩危経由の道を選ぶ。

 西祖谷山村のかずら橋には,大型バスが駐車できる大駐車場が完備され,食べ物屋や,土産物屋,宿泊施設などが周囲に何件もある。一方,東祖谷山村の二重かずら橋の方はというと,10数台の駐車スペースと,道を挟んだ向かいに,軽く食事が取れる店があるだけである。その店すら私が行ったときには営業をしていなかった。観光開発がほとんどされておらず,雰囲気や,周囲の景観も含め,西祖谷山村のそれよりも私は好きだ。

女橋 入り口で,おばちゃんに500円を払い,川に向かって下る道を数分下りると,すぐに橋が見えてきた。男橋と呼ばれるひとつめの橋は,長さが43mあるそうだ。うっそうとした木々の中を流れる祖谷川の急流の上にひっそりとかかり,とても雰囲気がよかった。紅葉のシーズンは最高であろう。

 男橋の上流側100mぐらいだろうか。長さ約20mの女橋が架かっていた。男橋,女橋ともに,数年前に職場の旅行で訪ねた西祖谷山村のかずら橋よりも幅が狭く,周囲が木々に囲まれているので,趣がある。かつて,平家一族が再興を期してこのあたりで様々な訓練を続けるために架設したといわれ,往時が偲ばれる。その後も,木挽きや生活道路として,また剣山信仰のためとして,そして,香川から高知への交易の道として,この橋が使われていたそうだ。13あったといわれる橋のうち,現在は2つしか残っていないそうだ。

 私は,高いところや不安定なところもあまり苦手ではないので,比較的簡単に渡ることができたが,苦手な人には厳しいだろう。足を踏み換えるたびに橋が揺れて,なかなか揺れも収まらない。また歩くたびにかずらがきしみ,もしかしたら足を踏み外すのではないかとか,切れて落ちるんじゃないかというような感覚から,恐怖を覚えるかもしれない。

補修用と思われるかずら野猿(人力ロープウェイ) かずら(シラクチカズラ)で作られているのは,平家一族が,何かがあったときにすぐに切ることができるようにしたためだと言われている。現在は,危機管理の時代。見えないようにワイヤーで補強されているので安心だが。シラクチカズラは,このあたりの山間に自生するつる植物だ。橋の補修用だろうか,女橋のたもとに,かずらの束が無造作に置かれていた。

 女橋のさらに70〜80m上流側に,野猿と呼ばれる人力ロープウェイが架かっており,ものは試し,周囲に誰一人としていなかったこともあるが,挑戦してみた。弾み車がついているのか,動き始めると案外軽い力で向こう岸までたどり着くことができた。一人でロープを引っ張って川を渡っているときは,さすがに少し虚しさを感じたが…。 

吊り橋の下は,澄んだ祖谷川の急流が流れる二重かずら橋女橋を下から見上げる